じぶんだけのいろ
むかしあるところに、
いつももんくばかりいうひとりのおんなのこがいました。
「どうしてあのひとはわたしのことみてくれないの!」
「なんでこんなかんたんなことできないの!」
そうやって、ことばのやいばをみがいてばかりいました。
けれど、そうしているうちに、
まわりのひとたちから、
「あなたこそここができていないじゃない!」
「こんなかんたんなことどうしてできないの?」
そういわれるようになりました。
おんなのこは、おこりました。
かんかんにおこりました。
「なんでそんなひどいこというのよ!」
「なんでわたしばかりせめられなくちゃならないのよ!」
へやじゅうのものをなげとばし、
おんなのこはおこりました。
おこりにおこりました。
すると、
「あなたがあなたをたいせつにしていないからよ」
とちいさなちいさなこえがきこえてきました。
おんなのこいがい、だれもいないはずのへやから、こえがしたので、おんなのこはびっくりしてしりもちをつきました。
「いたいわね」
また声がしました。
その声は、おんなのこのおしりのしたからきこえます。
「なに?え?いし?」
「そうよ。わたしはあなたのこころのいし。」
「なんでしゃべれるの?」
「わたしはあなただから。」
「は?いしがわたしなわけないじゃない。」
「しんじなくてもいいわよ。べつに。しんじようがしんじまいが、これがしんじつだから。」
おんなのこはあたまがぐるぐるまわって、すこしへんになったのだとおもいました。
「なんでそんなにまっくろなの?」
「あなたのこころをうつしだすからよ。」
おんなのこはまたかんかんにおこりました。
「だれがまっくろよ!だいたいあんた、おしりのしたになんていないでよ!いたいじゃない!」
「ねぇ、それってほんとうにあなたなの?」
「は?わたしはわたしよ!」
「ほんとうに?」
「ほんとよ!」
けれど、そうきかれてみるとなんだかかなしいきもちになってくるのです。
「おこりたいの?」
「ちがうわよ!おこりたいんじゃない!」
「じゃあ、どうしておこってばかりいるの?」
「それはみんながわるいんでしょ?!わたしをせめてばかりいるから!」
「それもほんとう?」
「なにが?ほんとじゃない!みんなわたしばっかりせめて」
「まぁいいわ。とりあえずまんげつになったらまたはなしましょう。つれていきたいところがあるからね。じゃ。」
そういっていしはきえてしまいました。
おんなのこは、いつのまにかねむってしまい、
つぎのあさには、ゆめをみたのだとおもいました。
しかし、まんげつのよる、
またあのいしがあらわれました。
あいかわらずまっくろでした。
「かんがえてみた?ほんとうのじぶんのこと。」
「わからないわよ!そんなこと!」
「じゃあ、いっしょにいきましょう。」
「どこにいくのよ!」
いしはおんなのこのまえを、ぴょんぴょんとあるき、
どんどんとすすんでいきます。
どんどん、
どんどん、
どんどん、
どんどん。
どんどんどんどんどんどんどんどん
「どこまでいくのよ!」
「まだまだよ」
どんどんどんどん
どんどんどんどん
どんどん
すすんださきは、
ふかーいふかーいもりのおくでした。
おんなのこはつかれはてて、
もんくをいうのもつかれてしまい、
おおきなきにもたれかかって、
すわってやすんでいました。
「ねぇ、いったいわたしってなんなの。」
「ほんとうはおこりたくないのよ。」
「ほんとうはみんなとなかよくしたいだけ」
「だけど、いつもけんかになっちゃうし、
だいきらいっていわれてかなしかったの。」
「だから、いわれるまえにわたしが…」
わたしが、、、、
「わたしが、なに?」
「わたしがさきにひとのことおこってた。
わたしがさきにおこっちゃうわたしのことおこってたの。」
おんなのこはそういってなきだしました。
「そうだね。ほんとうのあなたは、なきむしでよわくて、やさしいこだった。」
「だけど、おとうさんとおかあさんがしんじゃったから。いつもおじさんたちににこにこしてないときらわれるとおもった。
だけど、ずっとにこにこしていると、むしゃくしゃして、ともだちにおこってばかりいたの。」
「そうだね。あなたはわるくない。」
おんなのこはなきになきました。
いつもいつもおこってばかりいたおんなのこは、そのひにかぎっては、なきになきになきました。
なみだがもうひとつぶもでなくなってしまうくらい。
でたなみだでにじができてしまうくらい、
おんなのこはなきました。
もうこれいじょうなけないとおもうくらいにないたおんなのこが、
かおをあげると、
それまでくもにかくれていたまんまるのおつきさまがあらわれました。
まんまるおつきさまにてらされたもり。
どんどんとあかるくなり、
まるでくらやみとひかりがおにごっこしてるかのるかのように、
ひかりがどんどんとさしこんできます。
とうとうおんなのこのところもてらされました。
すると、ただおおきいとおもっていたきには
、ほんとうにさまざまないろがついていたのです。
「これはなに?」
「これはいろのき。ほんとうのじぶんとであえるきよ。」
「ほんとうのじぶん。」
おんなのこは、おおきなきをもういちどぜんぶみてみることにしました。
うねうねとしたへびみたいなねっこも、
おんなこがだきしめてみても、まったくうでがとどかないおおきなみきも、
ふといところから、ほそいところにのびていくえだも、
かぜにそよいでなにかおはなししていそうなはっぱも、
すべていろんないろでできていました。
それはおんなのこがみてきたもののなかで、
いちばんうつくしいものでした。
ふかいうみのそこのようなあいいろや、
いまとれたばかりのトマトのようなあかいろ、
すこしかなしいときにみあげるそらのはいいろや、
うれしいときにみるしゃくやくのはなのあかむらさきいろ。
すべてがきらきらとかがやいてみえました。
「わぁ、きれい」
いろのきにみとれていると、
いしのことをすっかりとわすれていました。
「あれ?どこにいったの?」
「ねぇ、どこにいるの?ねぇってば。」
おんなのこはなんだかかなしくなり、
なきだしそうになりました。
だって、ようやくじぶんのことをわかってくれるほんとうのともだちにであえたのですから。
しかし、いしはみあたりません。
「ここにいるじゃない」
うしろをふりかえると、そこにはいろとりどりのいしがいました。
「え、まっくろじゃないじゃない。」
「あなたのこころをうつしだすからね。おこって、ないて、かなしんで、わらって、かんじたあなたのこころは、もうくろいっしょくではなくなってしまったのよ。」
おんなのこはうれしくなりました。
いしがきれいになったことよりも、
いしがいっしょにいてくれることにうれしくなりました。
「ありがとう。あなたのおかげよ。わたしはわたしになりたかった。だれかになりたかったわけじゃないの。」
「あなたはもうだいじょうぶ。すがたはみえなくても、わたしはいつもあなたのなかに。」
そういうといしはおんなのこなかにとびこみ、みえなくなってしまいました。
そのしゅんかん、まんげつのひかりがきえ、
おんなのこは、きゅうにねむくなり、
いろのきにもたれかかってねむりました。
つぎのひ、おんなのこがおきたところは、
じぶんのいえでした。
いしもいません。いろのきもありません。
けれど、おんなのこのきもちはにじいろでした。
じぶんだけのいろのいしがいつもみまもってくれているとおもったからです。
そうおもうと、
おきたべっとも、
まどからみえるけしきも、
いままでどんよりとはいいろだったそらも、
すべてきらきらしたものにみえました。
そして、おんなのこはべっとからかけおり、
おじさんとおばさんにいいました。
「いままでありがとう。いつもありがとう。そばにいてくれてほんとうにありがとう。」
いままでにこにこしていたけれど、ほんとうはおこりんぼのおんなのこを、
おじさんとおばさんは、かわいいとおもいました。
そして、ぽろっとなみだがおちました。
そのなみだのいろもまた、
そのひとだけのいろ。